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ディベートの準備の仕方


ここでは、筆者が『日本は首都機能を移転すべし』という論題で、肯定側を担当したディベートを例に、どうすれば効果的に短時間でディベートの準備ができるかについて述べます。
社会人のようにリサーチに十分な時間を割けない人が、ディベートをする際の参考になるものと思います。

準備に要したおおよその時間
約3時間(会社の昼休み+通勤電車の中)
準備したもの
  • 立論
  • 考えられるデメリットへの反論とそのための尋問
  • 自己の議論を支えるデータ(尋問/反駁用)
データ以外は、すべて携帯端末に入力しました。(電車の中での作業がしやすいため)
データは、ハードコピーを用意しただけで、カードに書き直すようなことをはしませんでした。(時間がないため)
準備の際の大前提
すべては自分の頭で考えましょう。
間違っても、既存の議論(特にディベート以外での議論)をそのまま採用してはいけません。
なぜなら、新聞の記事や刊行本の議論は穴だらけで、ディベートでそのまま使えば負けが見えているからです。
私はいまだかつて、そのまま採用すればディベートに勝てるぐらい、論理的な意見を述べている新聞の記事や刊行本に出会ったことはありません。
準備の手順
  • 1.概要情報の収集
  • 2.メリット/デメリットのピックアップ
  • 3.最適メリットの選択
  • 4.仮立論作成
  • 5.データ収集
  • 6.立論推敲
  • 7.デメリットへの反駁検討
概要情報の収集
検討すべきメリット/デメリットをピックアップする補助となるデータを収集します。
刊行本でも結構ですが、刊行本ではお金もかかるし、内容が多すぎて読むのに時間がかかります。
短時間で効果的に情報を得るには、webのホームページを利用するのがよいでしょう。
ここでの目的は、あくまでメリット/デメリットをピックアップするための情報収集ですから、ディベートの中で証拠として採用できるかどうかを考える必要はありません。
例:

三菱総研のホームページ
日本経済生産性本部のホームページ

メリット/デメリットのピックアップ
収集した情報を元に、メリットとデメリットを考えられるだけピックアップします。
誰も考えつかないようなメリット/デメリットは、相手も準備していないという意味では効果的ですが、得てしてリンクはきわめて弱いです。(このような議論を簡単に論破できるような議論力はディベータには必須です)すぐに切れそうなリンクしかないメリット/デメリットは無視してもよいでしょう。
今回は以下のようなメリット/デメリットをピックアップしました。
メリット
  • 首都機能の地震からの保護
  • 東京の過密解消
  • 内需拡大
  • 政経の癒着の解消
  • 技術創造の機会
  • 地方分権
  • 人心一新/改革てこ入れ
  • 外交の活発化
デメリット
  • 財政の圧迫/国民の負担増加
  • 自然破壊
  • 政治の腐敗化
  • 経済的ロス
  • 新たな集中
最適メリットの選択
ピックアップしたメリットについてその発生過程を検証し、最もリンクの強いと思われるものを選びます。(数は立論の時間によります)
まず、最初に収集した情報から、各メリットの発生過程を理解します。
その後、その発生過程が本当に論理的かどうかを検証します。
リンクマップを作成するのも頭を整理する上で有効です。
ここで気をつけなければならないことが2点あります。
  • 基本的に自分で考えなければなりません。
決して人の議論を鵜呑みにしてはいけません。前述したように人の議論は穴だらけだからです。
  • 誰もが考えるようなメリットが必ずしも反論に耐えうる強い議論とは限りません。
たとえば、『過密解消』は世間一般では良く挙げられるメリットです。
しかし、とても反論に耐えうるものではありません。
なぜなら、政府試算で新首都の人口は60万人とでているからです。
1200万人中の60万人では過密解消を唱えるにはインパクトが小さ過ぎます。
仮立論作成
立論に採用するメリットが決まったら、それをベースに仮の立論を作成します。
最低限、以下の点について、考えられる反論も考慮して検討しておきます。
  • 定義
  • プラン
  • メリットのラベル
  • メリットの発生過程
  • メリットの重要性
今回のディベートで、私は以下のような仮立論を作成しました。
定義
  • 日本:日本国政府
  • 首都機能:立法、司法、行政の3権
プラン
  • 2010年までに阿武隈地方に移転
  • 費用は一般公共投資枠から十年に分けて捻出
メリットのラベル
  • 首都機能の地震からの保護
メリットの発生過程
  • 現状

首都機能は東京に集中
東京は周期的に大地震に見舞われている

  • 現状の問題点

大地震が来ると日本に短長期的に深刻なダメージを与える

  • 短期的:首都機能の停止(主として物理的な障害による)
  • 長期的:首都機能の停滞(主として人材の損失による)
プランの問題解決性
  • 地震がこないから安全
  • 地震がきても新しい都市だから対策が打てて安全
メリットの重要性
  • 発生過程の一部を要約
この段階で考えた反論は『財政圧迫』のみです。これは以下の点でクリアできると考えていました。
  • 10年に分けて投資すればそれほど高額ではない。
  • 仮に、国の赤字を増やすことになっても、隠れ借金を含めれば400兆円にもなる現状からみると微々たるもの。
データ収集
次に、仮立論に沿って、立論を強化する具体的なデータを収集します。
具体的には、今回以下のようなデータを集めました。
  • 首都移転にかかる公的費用とその使い道
  • 東京が周期的に大地震に見舞われている事実
  • 今後も東京に大地震が来る確率が高いことを示す専門家の意見
  • 阿武隈地方は地震に対して安全であるというデータ
  • 国家予算の中の公共投資額
1時間もあれば、ホームページですべての必要な情報がそろいます。(ほとんどのデータは刊行されているので、引用する場合は刊行物から引用する形をとります)
立論推敲
データがそろったところで、立論をデータで補強します。今回は立論の時間が3分と短かったので、データは引用の形をとりませんでした。(必要なら尋問や反駁で出す)
立論の形が固まったら、以下の点に注意しながら推敲します。
  • 指定時間(今回は3分)に収まるか
  • ナンバリング/ラベリングは適切か
  • 主張−根拠−データの順で説明しているか
デメリットへの反駁検討
立論がほぼ完成したら、考えられるデメリットへの反駁を考えます。
今回は以下のデメリットについて検討しました。
  • 財政の圧迫/国民の負担増加
  • 自然破壊
  • 政治の腐敗化
  • 経済的ロス
  • 新たな集中
デメリットへの反論は、発生過程と重要性について検討し、それぞれについて最低でも一つづつ、できれば合計三つの反論を用意します。
また、できればターンアラウンドになるような反論を考えるとよいでしょう。
さらに、上記反論を効果的に行えるよう、各デメリットについて尋問も検討します。
デメリットへの反論のために、必要ならプランに手を加えます。今回は以下の内容をプランに加えました。
  • 民間団体によるアセスメントを設立し、環境に優しい開発を行う。

注意:このプランだけを持って、『自然破壊が進む』というデメリットに対抗しようとしたわけではありません。
反論に必要な伏線に過ぎません。

最終準備
立論を指定時間内に言えるよう繰り返し練習します。
必要なら、立論の文言を調整します。
立論の原稿に、30秒おきに印を付けておくと便利です。
データは必要に応じて提出しやすいように、ポストイットをつけるなりの工夫をしておきます。(カード形式に書き直しておくのがベストだが、社会人では時間がない)
最終的に完成した立論を以下に掲載します。
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