プレゼンテーションの基礎・基本
授業づくりネットワーク No.171 2000/3

現在、企業内教育でプレゼンテーション研修は盛んに行われている。
今回は研修の内容に沿って、
プレゼンテーションの基本部分、
プレゼンテーションの定義(何か)、
プレゼンテーションの構成要素の概略を説明してゆく。

■プレゼンテーションの定義
プレゼンテーションとは何かと問うと、次のような答えが返ってくる。
パワーポイントを使って行うこと、わかりやすい話し方、説得力のある話し方、姿勢や身振り手振りの方法...etc
いずれも、プレゼンテーションを正確に言い表してはいない。
では、プレゼンテーションとは何か?
相手に行動の変化を強いる行為である。
つまり、相手を説得し、相手に納得させて、相手に決断を促し、実行させるための行為、これがプレゼンテーションなのである。
パワーポイントの使用も、話し方や身振り手振りも、プレゼンテーションの一部にすぎない。
プレゼンテーションというと、何か大がかりな(パワーポイントを使ったり、資料を配付したり、等々)作業と考える向きもあるが、大がかりなものだけではない。
私たちは日常的に、相手に行動変化を強いる行為をしているのである。
仕事の中で行われる「ホウレンソウ」(報告・連絡・相談)も、プレゼンテーションである。
例えば、何かの報告をする場合、報告をする方は、聞き手に伝えることで、報告の内容を理解してもらう、あるいは報告に沿って次の行動をとってもらおうとしているのである。
また相談にしても、相談者は相手に何かのアドバイスを提出させるという行動を期待しているのである。
更に身近な例で考えてみよう。
子供が母親に向かって「お腹がすいた」と訴えるのも、一つのプレゼンテーションである。
「お腹が空いた」とプレゼンテーションすることで、母親に食事の用意をすることを期待し、そのように行動することを強いているのである。
■プレゼンテーションの基本要素
プレゼンテーションを構成する要素は次の三つがある。
  • 分析
  • 構成
  • 伝達
分析とは
プレゼンテーションは、準備なしにはじめるものでも、闇雲に準備するものでもない。
相手を説得するための材料を用意しなければならない。
集めた材料を適切に配置し、効果的な伝達方法を用いなければならない。
適切な材料を集め、組立、伝えるために、事前に準備をすることが「分析」である。
分析作業は、三つのものがある。
  • 目標分析
  • 聴衆分析
  • 方法分析
■目標分析
目標分析とは、何のためにプレゼンテーションを行うのか、ということを自身で確認することである。
具体的にいうと、プレゼンテーションをすることで、相手にどのような行動の変化を期待するのかという、プレゼンテーションの「目的」。
それと相手にどの程度の変化を期待するのか、プレゼンテーションの「目標」、この二つを確認するのである。
例えば、子供が「お腹が空いた」とプレゼンテーションしたとき、その目的は食事にありつくということだし、目標は夕食が出されること、少なくとも何か食べ物が出されることになるだろう。
目標分析を踏まえ、次は聞き手を分析する。
■聴衆分析
聴衆分析とは、相手、つまり聴衆の状態を分析することである。
具体的には、聴衆の中の意志決定者(キーパーソン)は誰かを見極めること、自分が行うプレゼンテーションの内容について聴衆は関心を持っているかどうか、また知識をどの程度持っているのかを予想し、分析しておくことである。
同じく「お腹が空いた」というプレゼンテーションの例で考えてみよう。
聞き手が両親、妹、弟という状況だったら、意志決定者(この場合は、食事の差配の決定権を持っている人)は誰か、自分の目的、目標を達成することが出来る人は誰かを見極めなくてはいけない。
もし、キーパーソンを間違えてしまうと、目的を達成できないことになる。
1歳半の弟に向かって「お腹が空いた」と訴えても、「空いた、空いた」と同調してくれるかもしれないけれども、食物を得るという最低限の目標も達成することは出来ない。
また、聴衆がプレゼンテーションの内容に関心がなければ、説得行為も効果はない。
既につまみ食いをしてお腹が満ちている妹に向かって訴えても「私は空いていないモン」といなされてしまうかもしれない、そして、食事に関して知識のない父親に向かって話をしても、「エーと、何か食べ物はないかな、ないな、我慢してな」といわれてしまうかもしれない。
ここではキーパーソンであり、関心も知識もある母親に訴えなければならない。
実際のプレゼンテーションでは、関心のない聴衆がいたり、知識の多寡にばらつきがあったりする。
聴衆分析に基づいて、次に述べる方法分析や内容構成、伝達の工夫をして、関心を高めたり、知識の平準化を図ってゆくことになる。
目標と聴衆の分析とともに、どのような方法で伝えるのかを考えておく必要がある。
方法分析である。
■方法分析
方法の分析とは、プレゼンテーションをどのように行うのかを分析することである。
具体的には、何時行うのか、どこで行うのか、伝達方法は何を使うのか、を考えることである。
何時行うかによって、目標の設定の仕方も変わってくる。
今すぐとなると、十分に準備が出来ないので、目標は低く設定することになる。
プレゼンテーションの実施までに時間があれば、十分な準備や聴衆の分析も可能となるので、目標も高くなるだろう。
どこで行うかによって、準備の方法も変わってくる。
自分のよく知っているところでするのか、知らないところでするのか、などを考慮しなければならない。
伝達方法は、何を用いるのか、口頭だけなのか、資料を配付できるのか、あるいはパワーポイントを使うのかによって、準備の仕方も変わってくる。
例えば、たった一人の聴衆に対して、大画面のパワーポイントを使ってプレゼンテーションしても効果は少ないだろうし、千人の聴衆を前に、複雑な内容を口頭だけで伝えるのは大変難しいことになる。
目標分析と聴衆分析を踏まえた上で、最適な方法を選ぶことになる。
分析作業を終えたら、次は聴衆に伝えるための内容の構成になる。
■構成
構成とは、伝えたい内容を聴衆にわかりやすいように組み立てることである。
原則は、
話したい順番と聴きたい順番は逆であるということだ。
話し手は、事の経緯に沿って話す方が楽である。
しかし、聞き手にとって、それは結論がなかなか分からない。
また、途中で聞き手が勝手な解釈をしてしまうかもしれない。
話し手の意図とは違う受け取りを聞き手がしてしまうかもしれない。
例えば、「お腹が空いた」と伝えるとき、なぜお腹が空いているのかその経緯から話をしていたら、母親には伝わらない。
「学校が終わって、健ちゃんと遊んでいたら、ちょっと喧嘩になって、
(母:喧嘩しちゃったの、けがさせなかったかしら、謝りに行かないといけないかしら)それで僕がごめんて謝って
(母:それはそれは、私の躾の賜物ね)また、遊んだからおやつを食べ損ねて・・・」
母:「まあ、あなたは偉いわ、じゃ勉強なさい」となるかもしれない。
内容を構成する段階で重要なことは、
相手に自分の意図を正確に伝えることである。
そのための工夫として
  • ロードマップ
  • ナンバリング
  • ベリング
  • まとめ
の基本的構成を使うことだ。
ロードマップとは、プレゼンテーションの冒頭で、これから話すことの要点や全体の構成を示すことである。
例えば「これから○○について、3点からお話をします」というようなことである。
ナンバリングとは、話のポイントに番号を振ることである。
最初に示した全体構造でいうと今どこを話しているのかを示すことになる。
ラベリングとは、話のポイントに見出しを付けることである。
見出しを付けることで、聞き手はそのあとはなされる内容を予測しやすくなって聴く態勢が出来る。
まとめとは、それまでのポイントを振り返って、伝えたかったことは何だったのかの確認を聞き手に迫ることである。
例えば「以上、3点から○○についてお話をしました」というようにする。
振り返りをすることで、聴衆の記憶は喚起され、要点が記憶されやすくなる。
内容構成が終わったら、実際にプレゼンテーションをすることになる。
このときには、いかに伝えるか、伝達方法に気を付けることになる。
■伝達
伝達の段階で気を付けるポイントは、次の二つがある。
  • 話し方
  • 態度
話し方とは、声の大きさ、話す速度、間の取り方、抑揚の付け方などを指す。
聞き手に物理的に声が届かなければ、伝えることは出来ない。
理解しやすい早さで伝えることも重要である。
また、ポイントを強調するときには「間」をとったり、抑揚に変化を付ける。
態度とは、姿勢、アイコンタクト、ハンドコントロール(手振り)、動作(体の動き)、指示(資料の指し示し方)のことである。
基本は、聞き手に不快感を与えない姿勢、コミュニケーションをとっていることを伝えるような視線を送ること、話をビジュアルに見せるための手の動かし方、聴衆の注意を喚起するからだの動き、効果的な指し示し方を工夫することである。
プレゼンテーションは「分析」「構成」「伝達」の要素から成り立っている。
この三つのバランスをとるとよりよいプレゼンテーションになる。