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論題の提示から議論の構築まで


〜ビジネスマン向け入門書から〜


教室ディベートへの挑戦 第3集1996.2.5
今回は社会人向けに書かれたものをとり上げ、教室の中にとりこめるものがあるかどうかを探ってみたい。
■1.ディベート試合にいたるまで
これまでの実践記録に対する不満として、試合にいたるまでの過程の記録が少ないことがある。
議論の構築と情報の収集、それらのすべを知りたいと思っても、どうも実践記録からは抜け落ちる傾向にあった。
これからはじめようとするものにとっては、これでは不親切である。
試合の記録があっても、それにいたる過程がなければ、途方に暮れるしかないのである。
今回は、最近出された二冊の本を題材に、それらのところを探ってみたい。
とりあげる本は、『ディベート入門』(北岡俊明著日経文庫)と『ディベート術入門』(北野宏明著ゴマプックス)である。
■2.論題の提示以降
論題が示されてから、情報の収集にかかるまで、どのようなことをすれぱいいのだろうか。
例えば、「日本は米の自由化をすべし」という論題を与えた後、子どもたちに、どのような行動を期待するのだろうか。
闇雲に図書室に走ることだろうか?
いや、図書室に走る子どもがいれぱいい。
何も指示がなければ、ただ呆然と立ち尽くすだけではないだろうか。
情報の収集の仕方は、ビジネスマン向けにはどのように書かれているか。
北岡氏の『ディベート入門』(以下、「北岡ディベート入門」とする)では、「どのような資料やデータを、どれだけ、いつまでに収集すればいいのか。
はっきり言って、こうだという解答はありません。」(P68)とある。
これでは、本当に何の解答にもなっていない。
北野氏の『ディベート術入門」(以下「北野ディベート術入門」とする)では、「問題発見能力の磨き方)という章を設け、「たとえば『日本政府はコメの自由化を行うべきである』という論題があった場合、政策の方向性のみが提示されていて、どのような具体的政策があり得るのか、自由化を行わなければならない問題点はどこにあるのか、あるいは自由化を断行すれぱどのような問題が起こりうるのか、といった点について、肯定側も否定側も独自に問題点を探し出さなけれぱならないのです。
つまり、まずはじめに問題を発見しなければ、議論の組み立てようもありません。」(P58)資料収集に走る前に、何が必要なのかを知らなけれぱならないことを示している。
次に、ある程度問題点が見えてきたら、どの程度の資料を集めるのか、ということになるが、「北岡ディベート入門」は、前述のように、なんら解答を持ってはいない。
それに対して、「北野ディベート術入門」では、「本格的なトーナメントに出場するときは、本であれば三百から四百冊、雑誌十数年分、新聞の縮刷版も十年から十五年分、データベースも全部検索するというように、自分はどんな情報がほしいのかを頭に置きながら、膨大な量のデータを読み進めていきます。」(P60)
教室で行う際には、これほどの量の資料に当たることは不可能である。
しかし、本格的にディベートの試合を行おうとすると、これほど調べるのだ、ということを知っておくだけでも有効だろう。
重要なのは、「自分はどんな情報がほしいのかを頭に置きながら」という部分である。
よく「資料に振り回される」という言いかたをするが、何を知りたいか、必要なのかを知らずに、闇雲に資料に当たってゆくと、あれもこれも、となり全体像を見失ってしまう。
まとめられなくなってしまうのである。
議論を構築するのに必要なものは何なのか、あるいは、自分は何を知らないのかを知っていて資料に当たると、必要な情報を選択することができてくるのである。
■3.情報の整理・分析
ディベートを行っていると、「あの資料は、どこだったっけ」と探しているうちに時間がきてしまう、ということがままある。
これは、情報の整理が十分になされていれば一解決できることなのだ。

「北岡ディベート入門」には、整理分析する具体的方法の言及はない。
「資料を捨てる勇気を持つ」・「資料やデータは図表にすること」と項目はあっても、具体的方法論の明記はない。
「北野ディベート術入門」では、どうだろうか。
「主に、B6判の情報カードを使って引用部分を抜き出していきます」・「このカードは、ディベートでの論点に沿って立てた細かい項目ごとに分類していきます。」(P60)

情報は、分類しやすいようにカード化し、分類してゆくのである。
収集した情報をあとから検索しやすくするわけである。
■4.情報の評価
情報(資料)は集めた、整理をした。
そのあと、その情報が質が良いものかどうかを判断してゆかなくてはいけない。
この作業は、情報収集の段階でも、整理の時にも行わなくてはいけない。
では、どのような情報が「質がよい」ものなのか、あるいはそうではないのか。
その基準はどこにあるのだろうか。
それは、なんとなく、勘で選んでゆくのだろうか。

「北岡ディベート入門」には、それは全く触れられていない。
「北野ディベート術入門」では、質の良い情報とは「非常に明確な論点を主張していて、それに対する理由付けが明確になされており、事実に基づいているものです」となっている。

これに対して、質の悪い情報とは、「主張が曖昧なもの、または、論点や主張だけが書いてあって、理由付けが全くないもの、事実に基づいていないもの、明らかに感情的な議論であるというもの」(P63)と示されている。
情報の取捨選択は、ディベートを多く行ってゆくうちに、経験のなかからこのような判断墓準にたどり着く。
しかし、時間的制約の多い教室の中で、子どもたちの経験知の獲得を待っている余裕はない。
はじめに、これらの基準を示すことが必要だろう。
■5.議論を構築する
ディベートの議論を組み立てるとは、どういうことだろう。
集めた情報の取捨選択を行い、それらをただ並ぺてゆくことだろうか。
ディベートでは、あるポイントに従って、議論を組み立ててゆく必要がある。
「北岡ディベート入門」では、それをディベートストーリーと呼んでいる。(P77)
「北野ディベート術入門」では、立論のプロセスで説明している。(P67)
一定の枠組みの中に、議論を組み込んでゆくのである。
ここで、注意しなければならないのは、「一定の枠組み」である。
枠組みが間違っていては、論理は破綻してしまう。
「「北野ディベート術入門」では、政策論題の普遍的なパターンが示されている。
「北岡ディベート入門」では、事実論題の例が示されている。
事実論題を教室の中で扱うことは少ないだろうと思われるので、参考にはならない。
また、「北岡ディベート入門」で、とり上げられた例は、事実論題を論じるとしても、枠組みとしては不完全である。
構築例は肯定側で論題は「日本市場は閉鎖的である」である。
主要部分を上げると、「(3)論題の言葉の定義 閉鎖的とは、市場が完全に自由化されてないことをいう。
(4)肯定する理由 製造業において下請けの系列化が進み参入が困難である。
流通の系列化がすすみ自由竸争が阻害されている(以下略)」
定義された「市場が完全に自由化されてないこと」が、肯定する理由で挙げられたものでは、なんら証明されたことにならないのである。
なぜか。
挙げられた理由の「参入が困難」・「自由競争が阻害されている」ことが、なぜ、完全に自由化されていないということになるのかがわからないのである。
定義とそれを満たすための基準、そして、基準に達しているかどうかの分析が事実論題では必要なのである。これ(注1)は価値論題でも同じである。
次のステップは、組み立てた議論をさらに深めてゆくことだ。
深めてゆくためには、どのような手順を踏んでいけぱよいのだろうか。
■6.リンクマップ=システム・ダイナミックス
議論を深めてゆく必要性は、両書とも触れている。
「北岡ディベート入門」では、「様々な角度からの分析です」(P80)とあるのだが、様々な角度からの分析は、どうすればできるのか、具体的方法が明示されていない。
「北野ディベート術入門」では、否定側の構築法に言及し、さらに「システムチャート」を作ることにふれている。
「論理構築の際、必ずシステム・ダイナミックス・チャートを書いています。
一中略一ある政策に関する波及効果について、ありとあらゆる可能性を図に書いていきますから、何十、何百という矢印が飛び交うことになります。
そして全体的なシステムを見てはじめて、自分たちの立論ではどこに焦点を絞り、相手がどの部分で反駁してきたらどこを出そうか、といった戦略を立てていくことが可能になります。」(P72)
議論を深めてゆくためには、全体像を把握することである。
それを図式化しておくとわかりやすい。
「北野ディベート術入門」では、この図の書き方まで説明がない。
教室ディベート研究会では、「リンクマップ」と称しているものである。
式化は、準備のどの段階でも有効な方法である。
では、どのように書き、使ってゆくのか。
一人で行ったときの例を挙げておこう。
上に示した例(図は省略)は、「日本はサマータイム制を導入すべし」という論題を与えられた直後に書いたものである。
既有の知識範囲内で、問題はどこにあるのか、導入したらどのようになるのか、ランダムに思いついたものを整理した段階である。
用意するのは、大きめの紙、カード(ポストイットなど、あとで張り替えることが可能なものがよい)である。
用紙の中心に論題のキーワードを書く。
(政策論題では、政策)中心に書くのは、様々な可能性を考えて、発展してゆく過穆を書き込みやすくするためである。
カードに思いついたものを書き留めてゆく。
書き留めてゆくものは、もちろん論題を採用したらどうなるか、ということである。
それらカードに書いたものを、紙上に配置してゆく。
最終的なメリット、デメリットと思われるものを外縁部におき、そこまでの過程と思われるもので、中心のキーワードからのつながりをつけてゆく。
例えば、「様々なコストの負担が増す」と思いついたら、
「なぜ、コストがかかるのか」
「時間の切替の手間がかかる」
「なぜ時間の切替の手間が発生するのか」
「サマータイム制では、春と秋に時刻の切替を行うから」
というように、つながりを考えてゆくのである。
カードを使うメリットは、位置の移動が簡単であるからだ。
思いつくものを直に書き込んでゆくと、つながりを示す線が複雑になってしまうことがある。
図式化しても、阿がなんだかわからなくなっては、意味がない。
資料の収集にかかる前に、とりあえず「リンクマップ」を書いておくと、得たい情報はなにか、ということがある程度見えてくる。
例えば、「切替費用がかかる(だろう)」と思いついたが、どこで、どのくらいかかるのか、試算はあるか、他国の例はないか、というように問題意識が生まれてくるのである。
次に、情報を収集したら、このリンクマップに修正、加筆してゆけばいいのである。
全体像を描きながら、様々な角度から検討することができる。
ビジネスマン向けのディベート書も、同じ「教育ディベート」のカテゴリーに属する。
吟味してゆけば、教室の中に応用することは、可能なのである。
(注1)「現代教育科学」(’95.12月号No499)
「授業ディベートの論題開発・9」岡山洋一・西澤良文で詳しく論じられている。